2025年1月27日
2025年2月2日
オーバーツーリズムが深刻化する日本の観光地。
SNSでの情報拡散や外国人観光客の急増により、各地で様々な問題が浮き彫りになっています。
鎌倉、富士山、京都をはじめとする人気観光スポットや、その周辺エリアでは、地域住民の生活への影響や、問題行為・環境破壊が懸念されており、観光地としての在り方が問われています。
この記事では、日本各地の観光地が直面する課題と、その最前線の対応についてお伝えします。
1月のある日、何気なくネットニュースを読んでいた時、一つの記事が目に留まりました。
世界遺産・富士山と五重塔を一望できる山梨県富士吉田市の新倉山浅間公園(あらくらやませんげんこうえん)。
(この記事のトップ画像写真の撮影場所です!)
フォトジェニックな写真が撮れる、いわゆる「インスタ映えスポット」として世界的な人気を集めるこの公園で、2025年4月から駐車場の有料化が決定したという内容でした。
周辺道路の渋滞緩和や施設維持費の高騰への対応として下された、同市による今回の決断は、観光客の急増が原因となっています。
いま、日本全国各地の観光地が、この問題に伴う様々な課題を抱え、対応に追われています。
この記事では、深刻化するオーバーツーリズムの問題に直面する日本の観光地の「今」をレポートします。
なぜ、日本の観光地でオーバーツーリズムが深刻化しているのでしょうか?
その背景には様々な理由が存在します。観光地に押し寄せる想定を超える来訪者数の増加、その理由と背景を見ていきましょう。
2023年以降、日本を訪れる外国人観光客の数は大幅な増加を続けています。
観光庁の発表によると、2024年の訪日外国人観光客の年間総数は3,686万人で年間過去最高を記録し、コロナ禍前の2019年の年間総数(3,188万人)を約 500 万人も上回る結果となりました。
この増加傾向は2023年から徐々に表れており、2024年に入ってからも衰えを見せませんでした。
特に、円安基調による旅行コストの低下や、各国の渡航制限緩和を追い風に、アジアを中心とした観光需要が急速に回復しています。
観光庁は2025年も引き続き、さらなる増加を予測しています。
コロナ禍における各国の厳しい外出制限や入出国規制は、人々の旅行への欲求を抑制することになりました。しかし2023年以降、世界的な規制緩和の流れを受け、その反動は顕著に表れ始めています。
特に、海外旅行に対する需要は急速に高まりを見せており、日本への旅行熱も例外ではありません。入出国時の検査や隔離措置といった煩雑な手続きから解放されたことで、観光客の往来は活発化しました。
制限されていた期間の反動から、むしろ以前よりも旺盛な旅行需要が生まれているのです。
SNSの普及も、この状況を加速させる一因になっています。
SNSの普及により人々の情報の収集方法は、ここ数年で大きく変化しました。Instagram、TikTok、YouTubeといったプラットフォームでは、魅力的な観光スポットの情報が日々シェアされ、瞬く間に拡散されていきます。
従来の旅行ガイドブックやWebサイトと異なり、SNSでは実際の訪問者による生の声や臨場感のある写真、動画を手軽に閲覧できます。
「インスタ映えスポット」という言葉に代表されるように、SNSは今や旅行先を決める重要な判断材料となっており、これまで注目されていなかった場所でも、魅力的な投稿をきっかけに人気スポットへと変貌するケースも増えているのです。
観光客の増加は、地域経済の活性化をもたらす一方で、新たな課題も浮き上がらせています。
各地の観光スポットでは、マナー違反や危険行為、地域住民との軋轢など、さまざまなトラブルが報告されており、特に訪日外国人観光客の急増に伴い、その頻度は増加傾向にあります。
ここでは、各観光地で起きている具体的な事例を見ていきます。
TVアニメ「スラムダンク(SLAM DUNK)」の舞台として知られる鎌倉高校前駅付近の踏切。江ノ島電鉄(通称:江ノ電)が運行するこの駅の踏切は、オープニング映像に登場する印象的なシーンの撮影スポットとして注目を集めています。
しかし2023年以降、観光客による危険行為が相次ぎ社会問題化しています。同社と同市により手配された警備員による制止を無視して車道に飛び出して撮影したり、近隣住民の敷地内に無断で立ち入るといったケースが後を絶ちません。江ノ電は注意喚起の看板設置や警備員の常駐など対策を講じていますが、観光客のマナー違反は依然として続いている状況です。
SNSで「富士山ローソン」として話題を集める、山梨県富士河口湖町のコンビニエンスストア。富士山との絶景ショットが撮影できるとして人気を集めていますが、観光客の危険な行為が問題となっています。
店舗前の道路を信号無視して横断する行為や、ゴミのポイ捨てが後を絶たず、地域住民からの苦情も相次いでいます。2024年5月に、同町は苦肉の策として、景観を遮る「幕」を設置しましたが、観光客によって幕に穴を開けられるなど、新たな問題も発生。安全面での懸念から、抜本的な対策が求められています。
世界遺産にも登録される忍野八海では、観光客による硬貨の投げ入れが深刻な問題となっています。本来、富士山の伏流水による澄んだ水質が特徴のこの湧水池群ですが、硬貨による水質悪化が懸念される事態に陥ってしまっています。「投げ入れ禁止」の立て看板があるものの、それに気付かず池に溜まった硬貨を見て、『そういう場所』だと勘違いしてしまうケースもあるようです。
さらに、観光客が写真撮影のために私有地と気付かずに民家内に入り込むケースも多発しています。観光客の多くは悪意なく行動しているものの、地域住民の日常生活に支障をきたしています。世界遺産としての価値を保全しながら、いかに観光と地域との共生を図るかが課題となっています。
山梨県富士吉田市のレトロな雰囲気が残る商店街は、富士山を背景に昭和の街並みが写真に収められる人気スポットとなっています。しかし、SNSでの写真投稿を目的とした観光客が、車両の往来がある道路上で撮影を行う姿が頻繁に見られ、危険な状況が発生しています。
地元住民や商店街の関係者からは事故の危険性を指摘する声が上がっており、安全な撮影スポットの確保や注意喚起の強化が急務となっています。
京都・祇園の花見小路通りでは、観光客による深刻な問題が相次いでいます。花見小路に面している私道への無断侵入が相次いだため、2024年5月には進入禁止と1万円の罰金を明記した看板が設置されました。
特に問題視されているのが、芸妓や舞妓への迷惑行為です。写真撮影を強要するため取り囲んだり、それだけではなく腕を掴むなどの危険行為も報告されており、伝統文化の担い手たちの活動に支障をきたしています。また、観光客の騒がしい声や話し声に、周辺住民から苦情が寄せられるなど、地域の生活環境にも影響が及んでいます。
オーバーツーリズムの問題に直面する日本の観光地。これまで紹介した事例は氷山の一角に過ぎません。
この状況を改善し、持続可能な観光を実現するためには、受け入れ側の日本と訪れる観光客の双方が変化する必要があります。観光地と観光客、それぞれの立場から、共生への道筋を考えていきましょう。
日本の観光地は、インバウンド需要の回復により観光資源としての価値を高めています。しかし、地域住民の生活環境を守りながら持続可能な観光を実現するためには、新たな取り組みが必要です。
入場制限や特別料金の徴収、混雑緩和の施策など、すでに対策を講じている観光地もありますが、その地域特有の課題にアプローチできる、きめ細やかな施策が求められています。国内の成功事例だけではなく、海外の成功事例なども参考にしながら、地域住民の安全性を最優先した観光施策を、官民一体となって展開していくことが急務になっていると言えるでしょう。
日本を訪れる観光客一人一人も、より良い観光体験のために意識を変える必要があります。観光地のルールを遵守することはもちろん、自国の常識が必ずしも通用しないことを理解し、謙虚な姿勢で訪れることが大切です。
他の観光客の行動に安易に倣うのではなく、その行為が本当に適切なのか、自分で判断できる「基準」や「行動手段」をもつ必要があります。『自分の満足のため』という一方的なスタンスではなく、訪れた地域の住民の生活や文化を尊重する姿勢が、真の観光体験には不可欠だということを忘れてはいけません。
日本の観光地が「今」直面しているオーバーツーリズム問題。その背景には、インバウンド需要の回復や情報社会特有の現象など、複数の要因が重なり合っています。
日本の美しい景観や伝統文化は、私たちが守り継いでいかなければならない大切な財産です。しかし、だからといって排他的な考えに傾くのではなく、観光客を受け入れながら共生への道を探る必要があるのではないでしょうか。
より良い観光のあり方を実現するためには、観光地と観光客の双方が変化する必要があります。日本人の文化や生活を守りながら、訪れる人々との相互理解を深めていく。そのためには、お互いへの思いやりの心を持ち続けることが何より重要だと考えます。
私たちNext Japan Guideは、これからも日本の観光をめぐる「今」を注視し続け、現場で起きている変化や課題を発信していきます。この記事が、日本の持続可能な観光の実現に向けた一助となればと願います。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
それでは、次の記事でお会いしましょう!